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廊下の角を曲がり、ふと見ると、前方からスーツ姿の春山先生が歩いて来るのが見えた。
急いで髪の乱れを手櫛で梳いて、服装の乱れがないか、身体を見下ろす。
「おつかれ」
「おつかれさまです」
「どこいくの」
「ちょっと、放送部室に…」
「あ、ほんと。…じゃ、これ、頼んでもいい」
春山先生は、手に持ったクリアファイルを差し出した。
「明日の朝イチで読む原稿。…テーブルの上に置いておいてほしいんだけど」
「はい、分かりました」
手を出すと、ひょい、とクリアファイルが宙に浮く。
戸惑って先生の顔を見上げると、先生は辺りにちらっと目を配ってから、わたしの耳元に顔を寄せた。
「…来週の土曜日、今日子先生の家で、この間の食事会やり直すんだけど。…空いてる?」
わたしは目をまんまるく見開いて、先生の顔を見た。
「…いいんですか」
「…なにが」
「だって、…ご褒美もらえること、してないのに…」
先生は笑って、
「この前、あんなことになったから、やり直ししたいって今日子先生が言ってるからさ。
祐希も来られるかどうか、聞いておいて。また、今日子先生からお家に電話入れてもらうけど」
「…はいっ」
わたしがぴょこ、と飛び上がって返事をすると、先生は微笑んでクリアファイルを差し出した。
「明日の引退放送、準備出来てる?」
「…はい。…田辺くんと、さっき打ち合わせしました」
「…そっか。楽しみにしてるよ」
ファイルを受け取ると、先生は笑顔を残し、背中を向けて歩いて行った。
…よかった…。白井さんのこと、怒ってないみたい…。
わたしはほっとして、渡り廊下の方に向かった。
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