1089人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
わたしは、白井さんのことが、すごく好きだった。
そして…彼の心を、少しでも救ってあげたかった。
あの人はいつも、…傷ついた事を誰にも悟られずに、あの部屋に帰って一人、心の綻びた部分だけを黙々と修理していたのだと思う。
その背中は、…きっと今も、とてつもない孤独の中にある。
白井さんの気持ちに応えられないわたしは、結局、何一つ、白井さんにしてあげることが出来なかった。
「よーしよし。おりこうおりこう」
泣き声を上げるわたしの背中を、彩加がごしごしと擦る。
これからも白井さんは、…あの部屋に美雪さんの写真を飾ることなく、色々な人に嘘をつきながら、生きて行くのだろうか。
今夜も、ニコニコと笑顔を浮かべながら、…器用なようで、きっと不器用なあの指先で、自分の心の傷を、せっせと修復するのだろうか。
『ばいばい、萌ちゃん』
あの時、…まだ、帰らないで、と…。
午後の放送も、聞いて行って下さいねと、…言ってあげればよかった。
最後に見せた白井さんの笑顔は…。
わたしに、もう少しだけこの場に引き止めてほしいと、願っていた。
最初のコメントを投稿しよう!