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放送部室の扉をノックすると、どうぞ、という声が返って来た。
その声に驚いて扉を開けると、窓際に春山先生が立っていた。
「おつかれ」
「お疲れ様です…」
部屋の中には、他の部員の姿が無かった。
「迷子係、俺の番だから。…みんな、昼休憩」
わたしが不思議そうな顔をしていたからか、先生が言った。
窓際のライティングデスクの上から原稿を取り上げ、テーブルの方に歩み寄る。
「午前の放送、評判良かったよ」
「ありがとうございます」
「午後もがんばって」
「はい」
席に座ろうとした先生が、ふとわたしの顔に目を留めた。
じっと見つめながら、テーブルを廻って、近づいて来る。
すぐ傍に立って、私の顔を覗き込むと、
「…泣いた?」
「いえ」
「…ウソつき。…泣いただろ」
「違います。…欠伸です」
「じゃ、顔見せて」
先生の指先がわたしの顔にかかった髪をすくい上げる。
顔を引くと、さらさら、と髪がその指を逃れた。
「…逃げるなよ」
「逃げてません」
もう一度伸びて来た手を、するりとかわす。
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