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 ピンポーン、と玄関のチャイムを鳴らすと、はーい、というフジコ先生の声がインターホンから聞こえて来た。 「あ、春山です」 『あ、いらっしゃーい。ちょっと待ってね』  ドアの前から一歩下がって待つ春山先生の背中をちら、と見上げ、嬉しさがじわりと込み上げる。  …今夜こそ、…今夜こそ、先生に……。 「…ねーちゃん、顔。…ひどいことになってるよ」  隣に立つ祐希に言われ、わたしは緩み切った顔を慌てて引き締めた。    文化祭の翌週の土曜日。  わたしたち3人は、フジコ先生の住むマンションの玄関前に立っていた。  今回の集まりの、表向きの名目は『食事会のやり直し』と『放送部引退祝い』だけれど、…わたしとフジコ先生は、密かに、事前の打ち合わせをしていた。  今回の食事会の、真の目的は…。 『はるきちを酔っ払わせてみたい会?』  ガチャ、とドアが開いて、大きな身体が飛び出してくる。 「…春山~。待ってたよっ」  大樹さんの身体が春山先生に覆い被さろうとし、先生はそれをひょいっ、と避けた。 「早いね、大樹。何時に来てたの」  何事もなかったかのように、春山先生はすたすたと玄関に入って行く。 「んーとー、…2時間前には来てたかな。買い物手伝ったりしてたし」 「そっか、悪かったな、遅くなって」  先生の後に続き、私たちも玄関に足を踏み入れる。  …今日のわたしは、いつもと違うんだから。  何て言ったって、今夜は…。わたしと祐希は、なんと。  魅惑の外泊許可を貰って来てるんだもんねっ!! 「ねーちゃん、顔」 「……」  わたしは必死で顔を戻しながら、勢いよくブーツを脱いだ。  …絶対に、こんなビッグチャンスを無駄にするわけにはいかない。  必ず今夜、…酔っ払って眠り込んだ春山先生を、こちょこちょしてみせるっ。 「おじゃましますっ」  わたしは道場破りのような勢いで挨拶すると、勇んだ足取りで廊下を進んだ。
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