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「…どうしたんですか」 「……」  先生は、むすっとした顔で、 「大樹にキスされた」 「えっ!!」 「……あと、耳、舐められた」 「えええっ!!」  先生はすごく納得のいかない顔をしながら、テーブルの上の空き缶を二つ持って、キッチンの方に向かった。  …やっぱり…。  前から、怪しい怪しいとは思っていたけど。  …大樹さんて…。やっぱり、春山先生のこと…。  事あるごとに抱きつこうとしたり、必ず先生の隣の席をキープしたり…。  あれって…明らかに、恋する乙女の行動だよね…。  わたしは、新たなビールを手に戻って来る春山先生の顔を見ながら、密かに頷いた。  こんなにキレイな顔なんだもん。  …男の人でも、キスしたくなっちゃうのも、無理はないのかもしれない。  でも…。  いくら大樹さんでも、先生を奪われるわけには…。  春山先生は3本目のビールを飲みながら、今度はソファにすと、と座った。  …あれ。  さっきより、遠くに行っちゃった…。  ソファの下に座ったままのわたしは、ちょっぴり落胆しながら膝を抱える。  テレビからは、すでにこけしが姿を消し、クラシックコンサートの映像が流れ始めていた。 「…あの人とは、連絡、取ってる?」  私が見上げると、先生はこちらは見ずに、テレビの画面に目を向けていた。 「あの人って…」 「…白井さん、だっけ」  先生が、さりげなくその名を口にする。 「…いいえ…」  わたしは首を横に振った。 「…あの時、…もう、会いに来ないって言ってましたから…」 「…そう」  春山先生はビールをこくこく、と飲んでから、手を伸ばして缶をテーブルの上に置いた。
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