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「…先生…」 「……」  先生は、何も言わず、長いため息をついた。 「…椎名」  頭の上で、ぽつりと呟く。 「…はい」 「…椎名…」 「…はい」 「……」  そしてもう一度、さっきよりも長いため息。 「…先生…」  わたしは、先生のスエットをきゅっとつまんだ。 「だいすき…」  先生はゆっくりと身体を引くと、わたしの顔を覗き込んだ。  しっとりと潤んだコハク色の瞳に、ドキッとする。  …もしかして…。  いよいよ、言ってくれるのかな。 『俺もだよ』的な、何かを…。 「椎名…」 「…はい…っ」 「後ろのホック、自分で留めてくれる?」 「…あ…はい」  と言ってから、 「…えっ?」  私は驚いてパジャマの上からブラを確認した。  …あっ…ほんとだ。…外れてる…。  わたしは急いで背中に手を回した。  ボタンだけじゃなくて、いつの間にかブラまで…。  全然気付かなかった。…まさに、職人技…。  …はるきちってば、油断できない。  もぞもぞとホックを留め直し、わざと非難するような目線を送ると、それを受けた先生が、ちょっぴり反省した顔をする。  その顔がなんだか可愛くて、…わたしは思わず、くすっと笑った。  可愛すぎる…。  …酔ったはるきちが、こんなになっちゃうなんて…。  わたしは目の前で伏せられている長いまつ毛を見つめながら、胸の奥をうずうずとくすぐられていた。
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