第1話

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 「ねえ、わかってる? 嘘、わかってないでしょ。誤魔化したって無駄なんだから。どうしてすぐ嘘を吐くの。はっきり本当の事言いなさい」  ■   ■  因果の始まりがどこにあるのかと言えばきっと地球が誕生する46億年以前の話になるんだろうが、そんな話を自分は出来ないし、どころか一週間前の話だってロクにできないだろう。イベントがあれば多少は記憶できるんだけど、基本的に記憶力が皆無に等しい。記憶力が無くて一番困るのが買い物なのだけども、買い物パターンを固定化することで今は不自由していない。冷蔵庫の中身も常に一定である。具体的には牛乳と生卵、基本調味料、キャベツもしくはレタス。たまにハムやなんかも気まぐれで入ることもあるけれど、基本はこの形である。足りなくなったら週に二度の買い物で買い足す感じだ。料理も日曜日にカレーを作って保存して、カレーが無くなる週の中盤以降にキャベツで簡単なおかずを作って、日曜日にまたカレー。  このルーチンが身体に染み付いているので日常生活はあまり困らないのだけど、逆にルーチンが少しでも崩れると一気に崩壊する。臨機応変に対応できない、とは少し違うのかもしれないけど仕事が溜まると頭が全く回らないのだ。それが原因でパニックを起こすことがある。家事が手に付かず泣き叫ぶんですなんて言うと、鼻で笑われそうだが当人としては笑い事じゃない。本当に何から手をつけていいのか、どうしたらいいのか分からなくなってしまうのだ(実際の仕事でも同じ事があり――恥ずかしい話だがトイレに篭って泣いてしまった――その後は仕事に身が入らずどうしようもなかった日が続いた)。  そんな理由から部屋に物は少ない。見える場所に置くのは最低限の日用雑貨か気軽に読みたい愛読書くらいで、インテリアにこだわりはない。  はっきり言って皆無である。  元々社交性の無い人間なので誰かに褒められる様な部屋作りは一切しておらず、かといって趣味と言う趣味も大して無いので実にシンプルだと自負している。が、どうやら部屋を見た人は皆似たような意見を持つらしく、同じような事を口にする。  寝るための場所であって住む部屋じゃない、とか。  無機質過ぎる、とか。
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