1186人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
「…び、びっくりした…」
見ると、ベッドのカーテンは半分閉じられ、入り口側からは見えないようにうまくカモフラージュされている。
「…萌って、窃盗癖でもあんの?」
「…ち、違うの!…薬、貰いに来て、それで…」
「ふうん。…何の薬?」
「あの…。…えっと、頭痛の…」
「…ゆかりちゃんなら、戻って来ないよ」
更科君はそう言って、布団を被った。
「午後から献血の手伝いで、隣の高校に行ってる」
「え。…鍵、開けっぱなしで?」
「俺が留守番、引き受けたの」
「生徒が留守番なんて…」
「ちゃんと可愛い泥棒、見つけたでしょ」
「……」
更科くんはニッと笑顔を見せ、ゴソゴソと深く布団の中に潜り込んでしまった。
…なんか、…普通に話せてる…。
わたしは、盛り上がった布団をじっと見つめた。
あの夜以降、更科くんと口をきいたのはこれが初めてだ。
「…なんか、久しぶりだね」
無視されるかな、と思ったけれど、更科くんはモゾモゾ、と動き、ひょこっと顔を出した。
「…それは、萌が放送室に全く顔出さないからじゃないの。…引退しちゃうと、冷たいもんだね」
冷やかすような口調は、依然と変わり無かった。
最初のコメントを投稿しよう!