第1話

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 昨日は、バイト中に今日のような大雨が降りだしたもんだから、バイト先である喫茶店近くに自転車を置いて、傘を借りて帰路についた。  行きの歩きはいいものの、帰りはどうしたんだろう。蝶の飛行スピードで自転車についてこられるのだろうか?  「でも、何で僕を追ってここまで来たの?」  「……きのう、たすけてもらった」  昨日助けた?僕が、蝶を?  ……。昨日の記憶、昨日の記憶……。  え?  「もしかして、昨日も今朝と同じプランターにいた?」  彼女の頷きを観て、僕の中で一応のつじつまがあった。  昨日、バイト中に降りだした雨のせいで、徒歩で帰ることを余儀なくされた僕は、いつもは自転車で十分しかかからない道を倍の時間をかけて歩いていた。  そして、その時たまたま目に入ったのが、いつも通るだけで名前も知らない家の玄関先に置いてあるプランター。  そこには、花にとまる一匹の黒い蝶。  蝶は、突然降りだした雨に避難することができなかったらしく、打ち付ける雨を耐えるように花にしがみついていた。  
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