第1話

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 僕は足を止め、立ったまま傘を蝶に傾けた。  そして、手近に落ちていた葉っぱを使って、雨風の当たらないところにその蝶を移したのだ。    たったそれだけのこと。  僕は善意なんてもんじゃなく、蝶も大変だなぁ、なんてことを思いながらやっただけ。  それなのに。  「あなたにたすけてもらえて、ほんとうによかった」  と、真剣な顔で見つめてくる。  「ありがとう、いいたくてきた」  どうやら、お礼を言うために僕の部屋まで来たらしい。正直、そんな大層なことをしていないので、変な感じだ。  「たすけてくれて、ありがとう」  「あ、いや。どういたしまして…」  ペコリと頭を下げる彼女に倣い、僕も照れながら頭を下げる。顔を上げると、そこには彼女の笑った顔。  ぽっと明りが灯るような、心が温かくなる笑顔。そして、ささやかながら笑い声を上げた。  とたん、顔が少し熱くなった。何故かわからないけど、見られたくなくて僕は俯く。  「わ、わざわざお礼言ってもらうようなことしてないのに……」  うろたえているのを隠したくて口を開く。けれど、早口になってしまって、失敗に終わる。  「そんなことない」  「で、でも。人間になっちゃったんだから。……あ。僕にお礼言うために人間になったんだよね?」  「うん、たぶん」  「じゃあ、目的達成だよね。どう?蝶に戻れそう?」  「え?」  「…え?」  「もとにもどれるの?」  「いや、知らないけど」  「わたしも、しらない」  「……」  「……」
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