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「うん、それ」
「んなわけあるか!?」
壁をにらんだまま声を荒げる。
「……ほんとう」
女の子が縮こまったのがわかった。一つ、大きく息を吐く。努めて、落ち着いて、質問する。
「蝶が人間になったって、言うの?」
聞いたことがないし、あり得ない。しかし、背後から「うん、ふしぎ」というか細い声。
「不思議で片づけるなっ」
しまった。また大きな声を出してしまった。再び、ほんとう、と、びくついた声が聞こえてくる。
冷静になれ。相手が何者かわからない以上、刺激しないほうがいい。
再び大きく息を吐く。と、右手がタオルケットを掴んでいることに気付く。今朝、バイトに行くギリギリに慌てて飛び起きたときのままの、無造作な状態のタオルケット。
僕は、それを右手で掴み直し、右肩の可動域ぎりぎりまで使って、女の子の近くまで運ぶ。勿論、顔は壁を向いたまま。
「とりあえず、これ体に巻いて」
女の子の戸惑いが空気を伝って僕に届く。
「そのままじゃ、さすがにそっち向いて話せないし」と続けるが、タオルケットは手からなくならない。
どうやら、僕の意図は伝わっていないようだ。
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