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少し怯えの色が混じるお母さんの表情に、
馴れてしまった心の痛みが振り返す。
「ごめんなさい。今日の分はもう……」
初めから5人分しか、
用意されていなかったであろう夕食。
初めから5人家族だったかのように続く日常。
そこに無理矢理介入しようとしている、
私の方が間違いなの?
「いいよ……。気にしないで」
本当。
もういいよ……。
期待するのを諦めた方が楽かもしれないのに、
諦めた先が怖い。
私は電気ケトルに水を汲み直し、
電源をいれた。
お湯が沸騰した事を報せる音が鳴るまでに、
一度自室に行って制服から部屋着に着替える。
私は再びリビングに戻ると、
インスタントのスープを作り、
それをお母さんの真向かいの席で食した。
母はやたらとこちらを気にしては、
嫌な視線を送ってきたが、
家の鍵を持っていたからなのか、
あるいは私の顔にどこか覚えでもあるのか、
他人と成ってしまった筈の私を追い出そうとはしなかった。
飲み終わったカップを片して部屋に戻る。
その後もお母さんは私の部屋を気にしてきたが、
私は無視していつも通りにすごさせてもらった。
初めこそは部屋の存在すら気づいてなかった様子だったが、
最後の方では何事もなかったように家族を振る舞っていた。
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