立体的平行視界

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学校の最寄り駅は同じ制服を着た者達で溢れ返っていた。 大体の生徒がこの時間に登校する為、 生徒の波に呑まれた一般の通行人は息苦しそうに顔をしかめる。 人の雑踏とは何処か違う、 皆が同じ方向に足を踏み出す人混み。 人を抜かしてまでして急ぐ必要のない、 比較的ゆとりのある時間。 目に映る前の人のペースに合わせていく内に、 自然と足並みも揃う。 それは宛ら行進でもしているかのような統率感が感じられた。 それに比べると、 それぞれのグループが好き勝手会話をすることで生まれる騒音の方が、 周りの民家には迷惑なのではないだろうか。 最近になって気が付いた。 人は以外に器用に歩いているのだと。 自由と言うのにも限度があり、 また暗黙の了解も存在している。 最近読んだ小説の中でも、 「人生とは自由という名の不自由」と書かれていた。 人は人と関わることで、 周りからレールというものを敷かれてしまうそうだ。 だとしたらここを歩く同学生たちは、 きっとそのレールの上を器用に歩けているのだろう。 何故私は踏み外してしまったのだろうか? 一歩一歩進むに連れて眩む視界。 ここ数日感じ続ける、 思考が度々停止する感覚。 周りが色素を失い、 自分だけがズレていく。 そんな気ばかりがして、 普段の生活そのものにも疲れを感じる。 受験が近付いて少しうつになっているのかもしれない。 そうでないと、 今まで普通に生きてきた日常を疑問視することなんて―― 「っ……!?」 自分以外の誰かの息遣いを感じ、 また、肩に軽く衝撃が掛かる。 風が背後から吹き抜けるように、 ふっと現状に戻される。 景色が少しずつ色付く。 ぶつけた肩を見ると、 すぐ近くに同学年の顔があった。 「すみません……」 小さく謝ると、 向こうも頭を下げてきた。 校内の狭い下駄箱を上の空で歩くとは、 随分と迷惑なことをしてしまった。 一番端の下駄箱から自分の上履きを取り出すと、 足に引っ掛けて人の少ない所まで行ってからトントンと踵を納めた。 最近はやたらと考えごとをしている。 こうしているのもまた考えごとなのも理解している。 それでも私は階段を上がりながら、 また考えていた。 それも、 ここ最近の自分は変だという自覚症状があるからだろう。 もしかしたら変なのは周りかもしれない。 そう感じる程、 私からは何も変わってないというのに――
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