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教室には既に半数近くの生徒が登校して来ていた。
まただ……
私は相手に不快感を与えない程度に、
自分の席に座る友達を見た。
「ごめん……。ここ私の席……」
この状況には毎回悩まされる。
相手が良い子だと知っているからこそ、
あまり不快な気持ちにさせてしまうのは気が退ける。
私に指摘された『私の後ろ』の席の子は、
「えっ?」ときょとんとした顔で私を見返した。
その子は誰かに話し掛けに私の席を借りている訳でもなく、
テキスト、電子辞書、並びに参考書まで机に広げて居座っている。
私の顔を見た後、
彼女は机中に視線を巡らせあるモノを見付けたようだ。
机の左側に掛かった学校指定の上質な鞄は、
紛れもなく彼女の物。
しかし、その隣に掛かる体操着を入れた袋は、
紛れもなく私の物だった。
彼女はすぐさま前後の席を確認し、
申し訳なさそうに笑った。
「ごめん。気が付かなかった……」
「分かってる……」
彼女がそのような冗談をするような子ではないことは。
とても優しい子で、明るく人気のある、
このクラスの委員長。
周りの冗談を受けてのることはあっても、
自らがこんな達の悪い冗談を仕掛けるような子ではない。
素だからこそに、
余計辛い。
彼女だけでなく、
皆が私の席を存在しないものとして詰めて座っている。
また、
それを指摘する者も誰もいない。
彼女は急いで荷物を纏めると、
後ろの彼女の席に座る子に下がるように頼んでいた。
皆が皆下がりきり、
ポツンと空いた一番後ろの席が埋まった所で先生が到着する。
私は席に着き、
朝礼が始まるのを静かに待つことにした――
ここ数日間、
私の周りは常にこの状態だった。
物理的に私や私の物は存在しているのに、
誰の意識からも欠落してしまっている。
言いたくはないが、
誰の記憶からも『私』が抜け落ちてしまったのだ。
そして更に困ったことに、
周りの皆から私は極端に覚え難い存在のようだ。
――というより、
そのように成ってしまったようだ。
何度説明しても、
常識はずれな行動をして注目されてみても、
ある一定時間以上姿が視界に入ることすらしないでいると、
綺麗さっぱり忘れられてしまった。
初めの内は朝には家族に忘れられていたことから、
夜のどっかしらのタイミングでリセットがかかっていると考えたのだが、
どうやらそうではないようだ。
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