立体的平行視界

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現に、夜更かししていた弟に付き合ってみた時には、 弟だけが私を覚えている、なんてややこしいことになりもした。 また昨日の検証実験では、 別クラスで教室移動上でも会い難い友達に登校後すぐに覚えてもらうも、 案の定下校の時には忘れていた。 このような現象が起こる人に例外はないようで、 友達、教師陣、家族までもが、 数時間振りに私を見ると怪訝な顔をする。 私はノートにひたすら黒い渦を書きながら、 淡々と黒板を板書する教師を眺めていた。 既に殆どの授業が、 受験を控えての演習へと切り替わっている。 この先生は、 解く時間を与えた後にランダムに当てて答えさせるので有名なのだが、 現状名簿なしで私が指されることはまずない。 私は窓の外を眺める。 この世界はおかしい。 突如、錆びた歯車が噛み合うような耳障りな音が頭の中を渦巻く。 頭を直接殴ったように、 頭蓋骨を共鳴させる重い鐘の音。 すっと頭を突き抜ける痛みは然程痛くはないのに、 視界は蜃気楼のように揺らいだ。 分からないことばかりなのに、 現状、そのことを相談出来る相手すらいないなんて…… 右手で片目を覆う。 少しずれた平面図を補正するように偽りの立体図が創りあげられた。 別に片目だけ……という訳でもないのね。 本来ならば見えない筈のものが、 私の片目には色濃く映っていた。 両目がバラバラな図を見せているような違和感。 長く目を見開いていると、 頭の芯がグラグラしそうで怖い。 別に、 完全に両目が別々の像を見ている訳ではないようだが、 確かに両方の像にはズレがある。 私は一度瞳を閉じて、 深く深呼吸をした。 再び見開くと、 さっきよりももっとはっきりと見える。 本当に――この世界はおかしい。 瞬くように度々私の視界から消えるそれらは、 視界の隅、または堂々と真ん中に映り込む。 これは、一体…… 幽霊というよりは妖怪に近いものかもしれない。 確実に視界の中で浮いているそれが、 現実のものではないことは容易に想像出来る。 ものによってはヒト型で、 そうでなかったら四足動物に翼を生やしたようなもので。 それでもなかったら、 それこそ原型を捉え難いようなものが点在する。 そんな歪な視界に、 私は目を擦った。
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