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建ち並ぶ建物の所々から、
そのマンションやらの延長を描いたように伸びるソレ。
一応は全透しているそのタワーには、奥の空が映っている。
しかし本物と偽物の境は、
ゆらゆらと揺れては多少のズレを生じていた。
変な生き物が見えるだけでなく、
自分が生活してきた空間そのものが少しずつ造り代えられている。
今となってようやく理解できた。
刻一刻と変化を続けるのとはまた別に、
今も尚頭では合わない歯車を無理に掛け合わせたような、
不気味な音が響いていた。
「ただいま」
予備校から帰ると、
時刻は夜10時を回っていた。
まれに全員が床に着いていたりする時刻だが、
今日は母親が起きていて、
リビングでパソコンを操作していた。
『既に全員が帰宅している』と思っているお母さんは、
不思議そうに顔を上げるや否や、
私に対して何かを言いたそうな雰囲気をだす。
私は先手を取る為、
すぐさま間合いを詰めると、
母がパソコンや書類を広げる6人掛けテーブルの上に家の鍵を叩きつけた。
お母さんは、それでも何かを言おうとしていた。
こう何度も繰り返されていては、
悲しみを感じることも薄れてくる。
「夕飯、ある?」
私は冷ややかな視線をお母さんに向けてしまったのだろうか?
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