第1話

9/9
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
お金の最低限必要な額とはつまり生きるために仕方なくかかるお金のことで、極論するなら食料と衣服さえあれば、餓死もしないし警察にもしょっぴかれもしないので、なんとかこの社会で生きていけると思う。 どうだろう。生きることだけなら衣服代もうかすことができるからさらに安くなる。 なのに世の人間が『金がねぇ』だの『今月ピンチ』だののたまっているのは、ひとえに『周りに人がいるから』だと、僕は思う。 一般的にそんなことを言う輩は、言葉に反して特に飢えていたりはしない。今月ピンチとか言いながら肌はつやつやなのである。 ということはピンチとは交遊費の点でということになり、そこで満を持してのぼっちの僕参上だ。友達が全くいないので交遊費についての心配がまったくない。つまり高収入である必要がないのだ。 「あー……」 とても虚しくなった。ぼっちが経済的だから何だというのだ。人生はお金じゃないだろう! 「……」 そのままナーバスな気持ちになって、落ち込んだときにいつもする自問が顔を出す。 どこで僕はしくじったのだろう。どうすれば、もっと楽しい毎日になっていたのだろうか。 小学校の頃は良かった。まだ人格が形成されてない幼い時期特有の、無知ゆえの物怖じしない態度で手当たり次第に遊びに誘って、なんとなく仲が良くなった友達がいた。 その頃は毎日が新鮮に感じた。同じ鬼ごっこでも、何回やっても鬼に追われるスリルを味わえたし、学年が上がっても友人の口から放たれる笑い話はいつも僕を笑わせてくれた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!