第1話

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要するに、僕がこのまま教室に残ったところで遊びに誘われる訳がないからさっさと帰ろうというわけだ。 通学カバンを手に教室の戸を越える。 生徒昇降口に着き、かつてはどうだったか知らないけれど、僕が使うようになってからは一度も懸想文なる紙片が入れられたことのない靴箱からスニーカーを取り出した。スニーカーに引っ掛かって、中から手紙のようなものが落ちてこなかった。当然だった。 スニーカーを雑に足元に落とし、まずは爪先を突っこんで、次に爪先で床をつつくようにトントンして踵をうまくスニーカーに収めた。 昇降口から出ると、春の陽気が中間服の生地を透過して僕の皮膚を温めた。ぽかぽかする。まぁ、春は例年こんな感じなので、別に今更暖かいくらいで感動したりはしない。 校門を抜けて、駅に続く道に出た。 五月になって既に満開時の綺麗さが過去の栄光と成り果てた桜並木を通る。三月下旬頃は綺麗だったんだけどなぁ。時間の非常さを感じた。桜並木さんには来年に期待である。 駅に着いて、定期のニモ○をタッチして改札を通過する。 ホームにはもう電車が着いていたので早速乗り込んだ。これから大体二十分したら降りる駅に着く。 それまで何しようか迷って、僕は寝ることに決めた。 友達でもいたら、こんな時間はお喋りでもしながらすぐに過ぎてしまうんだろうなぁ。
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