2012年 夏。

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 通称孫陸こと孫の陸攻に言わせると、タンメーは昔から図体の割に身が軽く、何かと素早いとの事である。 陸攻がそれを初めて実感したのは、彼がまだ幼稚園の年少組の頃であった。 病弱であった彼の父の代わりに運動会の父兄参加競技である徒競走に出場した一式翁は、並み居る若い父親達にまるでひけをとらなかったどころか、堂々の一等賞に輝いたのである。 翌年の運動会では、一式翁がリレーのアンカーに抜擢されたのは言うまでもない。  それから既に幾星霜。 南陵高校鉄道研究部の若き友人たちそして孫夫婦と共に、横川界隈と軽井沢界隈を堪能した一式翁は、次の目的のために一旦東京に戻っている。 あいも変わらず夏の暑さが続く中、三人は上野駅から徒歩で浅草を目指していた。  尚、くるみと陸攻はバスかタクシーでの移動を一式翁に勧めたのだが、どういう理由からか翁は徒歩での移動にこだわっている。 如何に沖縄生まれの沖縄育ちとは言え一式翁は満96歳。 誰が考えても一番先に顎を出しそうなのは一式翁の筈なのだが、翁はそんなもん知った事かとばかりに一行の先頭に立ち、しっかりとした歩調にて歩を進めていた。
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