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タツオは幼いころから、この能力で周囲の大人たちを驚かせてきた。神童という名は今では、菱川浄児(ひしかわじょうじ)のものだが、タツオも幼い頃そう呼ばれていた。
「頭をさげたまま、あの木の陰に隠れよう」
ブナの大木だった。戦車用の対物破壊ライフルでも使用しなければ、撃ち抜くのは不可能だ。ふたりはゆっくりと雑草のなかを匍匐(ほふく)前進し、ブナの反対側に回りこんだ。幹にもたれかかったサイコが制服についた枯葉をはたいていった。
「覚えてなさいよ。わたしの新品のジャケットをこんなにして。これ、特注品なんだから」
さすがに東園寺家のお嬢さまだった。養成高校の制服さえオーダーメイドなのだ。タツオはつぎの銃撃を慎重に待った。狙撃は不可能と見て、あきらめたのだろうか。
そのとき午後の授業の始まりを告げる予鈴が鳴った。学校中が生徒の動きだす気配で満ちる。タツオは立ちあがり、ひょいと幹から顔をのぞかせた。
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