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 ……怠慢だった、とは思う。  私は地区の慰労会に来ていた。隣駅の近くにある居酒屋。地区内の店長や社員、契約社員が40人位集まっていて、20畳の宴会場はむせかえる程に熱気であふれていた。司会が促すと地区副部長の永井が乾杯の音頭を取る。 「乾杯!」 「カンパーイ!」  私は隣の席にいる社員とグラスを合わせながら永井の動きを横目で追っていた。永井は先ほど乾杯したグラスに口を付けながら歩き、向こうの壁側の席に座る。座ったと同時に入社2年目の女の子が瓶ビールを持って酌をした。知っている、あの子。神田という短大卒の子で、この秋から地区事務所に配属になった。立ち通しの売り子という業務内容に体が追いつかないのか何度も貧血で倒れ、そのたびに病院に運び込まれるという彼女。使い物にならないと判断した地区部長が内勤にと地区事務所に異動させたのだ。  少し茶の入った長い髪は緩やかにカーブしていて、束ねることなくそのまま胸の当たりまで垂れている。店舗配属の社員は規定で髪が長ければ束ねなければならないことになっている私は、後ろの低い位置で髪をまとめていた。私は30代半ば、ただでさえオバサン臭いのだが、高い位置でオダンゴにすると肩が凝る上に髪をキツく縛るので地肌がツレて痛む。だから仕方なくなのだが、ああやって目の前で、しかもヒトの恋人の目の前で髪を揺らされると気が気では無い。
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