1068人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
視聴覚室の扉を開けると、パシャ、とストロボが光り、ピピピピピピ、と電子音が響いた。
部屋の中央に設置された、こじんまりとした撮影ブース。
その左側に立てられた大きなレフ板の脇で椅子に腰かけ、笑顔を作っているのは、彩加だった。
卒業写真にしては笑いすぎじゃないかと心配になるくらい、大胆な笑顔だ。
「はい、いいですねえ。それじゃ、ちょっと真面目な顔も貰っておこうかな」
ちょっとチャラい感じのカメラマンのお兄さんが言うと、彩加は途端に神妙な顔をして見せた。
「おっ。すごくいいね。…うちの写真館の専属モデル、お願いしたいくらいだよ」
…めちゃめちゃ、調子いい事言われてる…。
それでも、やはり言われた彩加としては嬉しかったのだろう。普段は絶対にしない上目づかいを披露し、はにかんで見せている。
視聴覚室の後方の壁には、パイプ椅子がずらりと並んでいた。
撮影を待っているのは女子3名ほどで、その一番向こう側には、春山先生が座っている。
「…はいっ、OK!ありがとうね、彩加ちゃん」
「いーえっ」
彩加は上機嫌でカメラの前から立ち上がり、すたすたとこちらに向かって来た。
「萌、今の、どうだった?」
「うん、可愛かったよ、すごく」
「えー、そんなことないよぉ」
だしっと肩を叩かれ、私は椅子ごと倒れそうになった。
「はい、お次は…先生ですね。春山先生、どうぞ」
「はい」
春山先生が立ち上がると、助手の若い女性が先生の元に駆け寄った。
エチケットブラシで簡単にスーツのほこりを取ってから、先生の髪を指で梳き、整える。
よく見ると、ほんのり頬を染め、明らかに先生の顔に見とれているのが分かった。
促された先生が椅子に座ると、カメラマンはカメラの高さを調整し、ファインダーを覗いた。
「おおっと、いい男ですね、先生!…こりゃ、女生徒にモテモテなんじゃないですかっ」
「いや、それはないです」
先生が笑うと、すかさずシャッターが切られた。
――なるほど…スゴイ。さすがプロ。
わたしはチャラいカメラマンの後ろ姿を尊敬の眼差しで見つめた。
最初のコメントを投稿しよう!