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「…先輩。…萌先輩」
わたしはハッと顔を上げた。
「…大丈夫ですか?」
少し起こしたベッドに横になった月子ちゃんが、怪訝な顔でわたしの表情を窺っている。
「あ、うん。…なんかちょっとぼんやりしちゃった。ごめんね」
わたしは慌てて、笑顔を作って見せた。
「受験勉強、大変なんですか」
「うん…。自由になる時間は、ほとんど塾の自習室と勉強机に居るかな」
「そうですか…。そんな時に、誘いのメールなんかしちゃって、申し訳なかったかな」
「あ、そんなことないの。たまにはこうやって、逃げ出さないと。
今日はサボる理由を作ってもらって、感謝してるくらい」
月子ちゃんからメールが届いたのは、今日の昼休みのことだった。
『もし良かったら、今日、遊びにいらっしゃいませんか』
彼女からこんな風に好意的なアプローチを受けたのは初めてだったので、嬉しさ半分、怖さ半分でやって来たのだが……。
今のところ、月子ちゃんの機嫌はとても良くて、どうやら本当に、ただ話相手が欲しかっただけのように見えた。
「今日、マミさんは?」
「ママ会なんですって」
「ママ会…?」
「翔平の通ってる学校って、今、1学年ひとクラスしかないそうなんですけど。
そのメンバーで、半年に一度、食事会をするらしいんです。
今回は、ちょっと早い忘年会みたいな感じだって言ってました」
「ふうん。…なんか、楽しそうだね」
「ところがそうでもないみたいですよ。クセのあるママとかも多いらしくて。
ママ会に不参加だったりすると、いないのをいいことに、悪口のネタにされることもあるんですって。
だから下手に欠席出来ないらしいんです。
マミさんが仲良くしてるママなんて――」
月子ちゃんの話を聞きながらも、いつの間にかわたしの中は、徐々に春山先生のことで占められていった。
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