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***** 「…先輩。…萌先輩」  わたしはハッと顔を上げた。 「…大丈夫ですか?」  少し起こしたベッドに横になった月子ちゃんが、怪訝な顔でわたしの表情を窺っている。 「あ、うん。…なんかちょっとぼんやりしちゃった。ごめんね」  わたしは慌てて、笑顔を作って見せた。 「受験勉強、大変なんですか」 「うん…。自由になる時間は、ほとんど塾の自習室と勉強机に居るかな」 「そうですか…。そんな時に、誘いのメールなんかしちゃって、申し訳なかったかな」 「あ、そんなことないの。たまにはこうやって、逃げ出さないと。 今日はサボる理由を作ってもらって、感謝してるくらい」  月子ちゃんからメールが届いたのは、今日の昼休みのことだった。 『もし良かったら、今日、遊びにいらっしゃいませんか』  彼女からこんな風に好意的なアプローチを受けたのは初めてだったので、嬉しさ半分、怖さ半分でやって来たのだが……。  今のところ、月子ちゃんの機嫌はとても良くて、どうやら本当に、ただ話相手が欲しかっただけのように見えた。 「今日、マミさんは?」 「ママ会なんですって」 「ママ会…?」 「翔平の通ってる学校って、今、1学年ひとクラスしかないそうなんですけど。 そのメンバーで、半年に一度、食事会をするらしいんです。 今回は、ちょっと早い忘年会みたいな感じだって言ってました」 「ふうん。…なんか、楽しそうだね」 「ところがそうでもないみたいですよ。クセのあるママとかも多いらしくて。 ママ会に不参加だったりすると、いないのをいいことに、悪口のネタにされることもあるんですって。 だから下手に欠席出来ないらしいんです。 マミさんが仲良くしてるママなんて――」  月子ちゃんの話を聞きながらも、いつの間にかわたしの中は、徐々に春山先生のことで占められていった。
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