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ざわざわと騒ぐ胸とは裏腹に、わたしの頭がやけに冷静にパズルを組み立て始める。
そのクラスメイトが、…もし、先生の恋人だったとしたら。
先生は、恋人をその時の事故で失ったのかもしれない。
亡くなったとは、限らない。
どんな形にせよ、その事故をきっかけに、先生は一人ぼっちになった。
芝田さんに再会して、過去を思い出した時の…喪失感に包まれた、先生の目。
『今じゃ、…その時の、そいつの顔をはっきりと思い出すことも、難しい。
絶対に忘れることなんか出来ないって、思ったけど…』
あの言葉は、…たぶん、嘘だ。
ううん。…嘘と言うよりも…。
…きっと先生は、本気でその辛い過去を忘れたいと願っている。
にもかかわらず、…何一つ、忘れることなんて出来ずに、苦しんでいる。
だって…。
もし、その彼女との過去が、先生にとってすでに色褪せたものだったとしたら。
もっと、懐かしい顔をする筈だ。
あの時、先生の目に浮かんでいたものは、――遠い昔の悲しみなんかじゃない。
無意識に深いため息をついて、ふと顔を上げると、月子ちゃんがわたしの表情を窺っていた。
「…何か、あったんですか」
「……」
「…哲哉くんのこと?」
わたしはゆっくりと首を横に振った。
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