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「今の名前は海だよ」
彼女は黙ってじっと僕を見つめていた。
僕の言葉を頭の中で反芻しているのだろうか。
ゆっくりとした瞬きが、長い睫を上下させ、潤んだ瞳を引き立てる。
数十秒がそのまま経過して、彼女が静寂を破る。
「海は私を覚えていますか」
僕には彼女と会った記憶など何処にもなかった。
彼女なら一目見ただけでも忘れることは無いだろう。
そして、忘れたくなどない。
だからだろうか、何故か初めて会ったばかりだ、とは言えなかった。
それは憚れる気がして、
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