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その日の放課後、晶子と朋美が出てくるのを翔が校門の前で待っていた。
「あら、今日はどうしたの?」
朋美が暗い顔をした翔の顔を覗き込んだ。
「ちょっと、相談があるんだ」
「わたしたちに?珍しいわねぇ、晶子」
「ホントに変?いつも軽くておしゃべりなのに、今日は静かだし雰囲気重いし…」
「まあ、詳しいことはあとで話すからとりあえず車に乗れよ」
校門の傍に止めた白いスポーツカーの後部座席に晶子と朋美は乗り込んだ。翔は車を発進させると、すぐに幹線道路に入った。
「いったいこれからどこに行くの?」
「浩一のアパートさ、朋美」
「浩一って、あのクラブで働いている浩一さん?」
朋美が晶子と顔を見合わせて、言った。
「そういえば、昨夜火事があったカラオケ店でわたしたち浩一さんに会ったわ」
晶子の言葉に、翔が驚きの声をあげた。
「何だって、そういうことか。あの店の火事と関係があるのかもしれないな」
「いったいどうしたの。どうして、浩一さんのことなんか気にしてるの?」
朋美が後部座席から身を乗り出すようにして訊いた。
「浩一は俺と高校で同級だったんだ。だけど、親父さんが交通事故で亡くなって、それであいつ、大学進学を諦めてクラブの従業員をしてるんだ」
「そうだったの。それで、どうして急に浩一さんのアパートに行こうってことになったの?」
「今朝、浩一の妹で高校一年生のさくらさんから電話があって、昨日から浩一が帰ってないって言うんだ。それで、相談したいことがあるからアパートに来てほしいということになって、俺は、朋美と晶子にも来てもらおうと思って、校門のところで待ってたんだ」
「そうだったの。これは失踪事件かもね」
朋美の言葉を聞いて、いつもの朋美の好奇心がうずきだしたなと晶子は思った。
浩一の住まいは軽量鉄骨アパートの一階奥にあった。翔が呼び鈴を押して名前を告げると、間もなくして小林さくらがドアを開けた。晶子と朋美が一緒だったのでさくらは少し驚いた表情をしたが、すぐに中に通してくれた。
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