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アパートの中は玄関を入るとすぐにダイニングキッチンでその奥に六畳の部屋が二つあった。さくらに促されて晶子たちはダイニングキッチンの四人掛けテーブルについた。翔と朋美が並んで座り、晶子は朋美に相対するように座った。さくらはキッチンで用意したお茶を運んできて、晶子の隣に座った。
「浩一からまだ連絡はないの?」
さくらに手渡されたお茶を自分の前に置きながら、翔が尋ねた。
「まだ、何もないんです。それで、わたし気になることがあって、翔さんに来ていただいたんですが…」
そう言って、さくらは朋美と晶子を交互に見た。
「ああ、この二人はさくらさん、初対面だったね。僕の隣が朋美、そして、さくらさんの隣が晶子。二人とも僕の友達で、浩一とも面識はあるよ」
翔に紹介されて、朋美と晶子はさくらと会釈を交わした。
「そうですか。わたし、さくらです。わたしたちは二人兄妹なんですが、母が過労でこの前倒れて、いま、入院してるんです」
「そう、それは大変だったね。浩一は何も話してくれなかったから、分からなかった」
「それで、相談というのはこれなんです」
そう言って、さくらは席を立ち隣の部屋からぶ厚い封筒を持ってきて翔の前に置いた。
「これ、手紙?浩一からの?僕たちが読んでも良いの?」
「ぜひ、読んでください。そして、お金も入っているんです。五十万円」
「五十万円?」
「母の入院費だと書いてあります」
翔はお金と手紙を封筒から取り出すと、手紙を開いて声に出して読み始めた。
―― さくらへ。ここに五十万円ある。これは入院費に使って欲しい。俺はある仕事を頼まれてその報酬としてこのお金をもらった。だから、決して怪しいお金ではない。俺は帰りが遅くなるのでお母さんの見舞いに行って元気づけてくれ。浩一 ――
翔が手紙を読み終えると、さくらは泣いていた。
「それで、この封筒はどこにあったの?」
「それは、わたしが昨日学校から帰ってきたらこのテーブルの上に置いてあったんです。それで、わたしこんな大金を見て、兄のことが心配になったんです。それに手紙には遅くなるってあるだけなのに、昨夜兄は帰ってこなかったし…。それで、今朝、翔さんにお電話したんです」
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