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「そうだったのか。実は、朋美と晶子は昨夜、浩一をカーディナルという六本木のカラオケ店で見かけたそうなんだ。そのことで浩一は何かさくらさんに話してなかった?」
「テレビのニュースで言ってた、あの火事があったというお店で兄を見かけたんですか?わたし、何も兄からは聞いてませんけど…」
そう言いながら、さくらは朋美と晶子の顔を見回した。
「そうなの、さくらさん。わたしたち、たまたまあのお店を避難中に非常階段で浩一さんを見かけたのよ。でも、仲間と一緒だからと言って、浩一さんは先に行ってしまったんだけど」
朋美の言葉に、さくらは不安そうな顔をした。
「じゃあ、このお金はその火事と関係があるんでしょうか?」
さくらはそう問いかけて、翔の顔を見詰めた。
「いまは、浩一を信じるしかないよ、さくらさん。それに、五十万円で浩一がどんな仕事を誰に頼まれたのか分からないけど、浩一は俺やさくらさんに嘘をつくような奴じゃないから、手紙にあるようにこのお金は怪しいお金じゃないと思う。だから、浩一を信じて、彼からの連絡をもう少し待とうよ。もちろん俺は心当たりのところにはこれから当たってみるけど」
「わかりました。わたし、兄を信じます。翔さん、そして皆さん、兄のことよろしくお願いします」
気丈に話すさくらだったが、彼女の兄を心配する気持ちは痛いほど翔には分かった。晶子や朋美もいまはどうすることもできず、翔の意見に同意するしかなかった。
翌日、秋葉高校では午前のホームルームの時間に伊藤直美先生が全国模擬試験のことを話題にして、今日が申込みの最終締切日だから希望者はあとで職員室に来て手続きをするようにと告げた。
この試験は、大手進学塾数社で結成する経済団体が毎年一回、二学期の初めに全国の高校二年生と三年生を対象とした共通問題で、英語と数学の学力テストを各地に試験会場を設けて行うもので、成績はすべて名前と点数及び所属高校名が公表された。このため、受験を希望する生徒はもちろんのこと、教師など高校関係者の間でもこの模擬テストの成績に対する関心が非常に高かった。
その日の昼休み、朋美と晶子が屋上でお弁当を食べていると澤本一樹がやってきた。
「やあ、お久しぶり。晶子さん、朋美さん」
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