第8話 全国模試

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            ***  その週末が全国模試の当日だった。都内の会場は大学の講堂が貸し切られ、試験開始は午前九時だった。晶子と朋美はK大学の講堂が試験会場だった。晶子たちが到着した時には講堂入口前に設置された受付に受験生の列ができていた。その列の中に二宮祐二がいるのを朋美が発見した。 「あら、祐二と同じ会場になったわ」 「偶然とは恐ろしいものね。これで、祐二の正体が分かるかも知れないわ」  晶子はそう言いながら、祐二の取り巻き四人組が祐二のすぐ背後にいることにも気が付いた。 「はあーい、受験生の皆さん、列に並んでください。受付で受験票と引き換えに座席番号を渡します。それを受け取ったら、右正面の入口から会場に入ってください」  主催者の係員がハンドマイクで繰り返し、アナウンスしていた。晶子たちは座席番号をもらって講堂に入った。会場には多数の一人用机と椅子が整然と間隔を置いて配置され、それぞれに座席番号が付いていた。正面の演台のところには試験官がいて、さらに両側の壁にはそれぞれ数人の係員が不正監視のために立っていた。晶子は朋美の前の席だった。 「見て、祐二はわたしたちから右斜めの真ん中辺の席にいるわよ」  朋美が筆記用具を机の上に出しながら小声で言った。 「取り巻き四人組の席はかなりバラけているのね。これでは不正は難しいってことか」  晶子が指摘したように、祐二の席からは四人組の一番近い者でも晶子たちの席より遠かった。  やがて、試験開始の時間となった。最初は英語だった。晶子の前にも問題と解答用紙が配られた。解答用紙はすべて四択のマークシートで、ア、イ、ウ、エのうちどれか一つを鉛筆で塗りつぶすようになっていた。試験官の宣言で試験が開始されると、時々巡回してくる係員の足音を除いて講堂はシーンと静まり返った。晶子は熱心に勉強をする方ではなかったが、英語はなぜか得意だった。問題用紙を読んでいくにつれて、晶子は自分にとってそれほど難解ではないと思った。
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