第8話 全国模試

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 試験時間は一時間半だったが、約三十分経ったときに晶子は異様な悪寒を感じた。晶子は顔を上げてあたりを見回した。すると、祐二の席の方を見たとき、一瞬、自分の眼を疑った。 (あれは…、あのときの…)  祐二の傍にあの白い長身の男が立っていたのだ。晶子をこれまで何度も襲った生霊族の透明刺客だった。その白い男は透明人間なので、監視をしている係員たちには姿が見えなかった。しかし、晶子だけにはその白い男が見えた。しかも、その白い男はすぐに祐二の傍を離れて、祐二の取り巻き四人組の一人、田中勇作が座る席の方へ足音も立てずに向かって行った。  晶子は係員たちの様子をすばやく伺った。そして係員の注意がこちらにないと確認すると、落とした消しゴムを拾うような恰好で机の下に頭を屈め、ふわりと姿を消して透明人間に変身した。そのまま晶子が立ち上がって振り返ると、後ろの席の朋美は試験に没頭していて、晶子が姿を消したことにまったく気付いていなかった。  晶子はそのまま、そっとその白い男の背後に回って勇作の席の様子が見えるところまで歩み寄った。その白い男は晶子に気付いていないようだった。彼は勇作が書きあげて机に置いた小さなメモを手に取るとそれをすぐにポケットにしまった。そして、また別の取り巻き四人組のところへ行って同じようにメモを回収した。それが一通り終わると、その白い男は再び足音も立てずに祐二のもとに戻って行った。勇作たちはメモが回収されると、何食わぬ顔で再び問題用紙を読み始めていた。 (あの白い男が祐二のカンニングの手伝いをしている。なぜ?)  晶子は、生霊族が祐二の不正の手伝いをしていることに驚きと共に憤りを感じた。晶子はすばやく自分の席に戻ると再び机の下に頭を屈めた恰好で、ふわりと愛らしい姿を現した。晶子はすぐに係員たちの様子を伺って、気付かれていないことを確認した。
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