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晶子が祐二の方を見やると、その白い男がポケットから集めたメモを取り出して、そっと祐二の机の上に置くのが見えた。それらを手に取ったとき、祐二の横顔が見えた。あきらかに、笑みがこぼれていた。それを見て、晶子の怒りが頂点に達した。気がついたら、立ち上がっていた。演台のところにいる試験官が立ち上がった晶子を見て声を掛けた。
「どうしました。お譲さん?試験中ですが、何か急用ですか?」
晶子は、周りの受験生たちも試験を中断して自分に注目していることを知って驚いた。
「あの、試験官、カンニングです。あそこの席の男の人がカンニングをしています」
そう言って、晶子は祐二を指差した。ただちに、係員が二人、祐二の方へ駆け寄った。
「君、カンニングをしていたのは本当ですか?」
試験官が演台のある舞台を下りて、祐二の席の前に歩み寄った。
「まさか、どうして、僕がカンニングなんかしなければならないんですか?」
祐二が試験官に抗議のそぶりを見せた。
「その人のポケットにカンニングのメモがあります。探してみてください」
晶子は、さっき祐二がとっさにその白い男から貰ったメモをポケットに仕舞い込むのを見逃してはいなかった。
「君、ポケットを調べさせてもらうよ」
係員のひとりが祐二のポケットに手を突っ込んでメモを数枚取り出し、それを試験官に手渡した。試験官はそれらのメモを見て、目を見張った。あきらかにメモにはこの試験問題の正解が書き連ねてあったからだった。
「わかりました。あなたがカンニングをしていたことはこれで明らかです。この全国模試は不正を行った者に対して特に罰則は設けてありませんが、即刻退場ということになっています。君はただちに、この試験会場を退出しなさい」
試験官の命令調の言葉に、祐二は仕方なく筆記用具をカバンに突っ込んで出口へと向かった。その途中で、祐二は晶子の顔を見てニヤリと笑ったが、その眼鏡の奥に光る眼は異様に冷たかった。晶子はあの白い男がいつの間にかこの会場から出て行ってもういないことに、そのとき気付いた。
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