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「うむ、この男が部屋に入る、突然、炎が上がったということになるな」
「そうです。そして、この男は慌ててソファーのシートで炎を消そうとしているんです」
「うむ、そして、手に負えなくなってドアから退出したということだね」
「そうですね。ただ、この部屋を調べた鑑識の係官によると、灯油をしみ込ませた布の破片が見つかっています。だから、自然発火ではなく放火の線が濃いというのが鑑識の見解です」
「いずれにしても、その真相はこの重要参考人が知っているということだな」
「そうですね。ただ、わたしが腑に落ちないのはこの男が炎に立ち向かっているときに、右から、左に影のようなものがふっと動いてドアのところで消えたことなんです。ほら、これです」
肇が映像を最初から巻き戻して再生しながら、指で画面を指した。明らかに赤外線カメラが動く影を捉えていた。晶子はそれを観て、はっとした。そうそれはあの透明男だったからだ。晶子は南雲の耳元で囁いた。
「おじさん、あの影の映像を拡大してもらってください」
南雲は小さく頷いて、肇に影の部分を拡大できるか尋ねた。
「この赤外線カメラの映像はかなり粗いので、どのくらい拡大できるか分かりませんがやってみましょう」
画面いっぱいに影の部分が映し出された。普通の人間には何もわからないはずだったが、晶子にははっきりとその男の顔が映し出されるのが見えた。この赤外線カメラは生霊族の発する不可視光線をしっかり捉えていたのだ。
「おじさん、もう充分です」
晶子が再び南雲の耳元で囁くと、南雲は頷いて肇に礼を言って分析センターを出た。捜査一課へ戻る途中で、南雲は晶子に尋ねた。
「どうだった、何か分かったか?」
「おじさん、間違いないわ。あれは、わたしを以前拳銃で襲った透明刺客よ。画面に影の部分を拡大してもらった時にはっきりとあの男の顔が映し出されたもの」
「ということは、その透明人間が放火をしてドアから逃げ去り、それに気づかずにあの小林浩一は部屋の炎を消そうとしていたということか」
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