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「そうです。そう言えば、わたしカラオケ店で浩一さんを見た時に右手をハンカチで包んでたわ。あれは、恐らく、火を消そうとしたときに手に火傷を負ったんだと思う」
「そうか。しかし、透明人間が放火犯となると我々ではいまのところ手の打ちようがないな。まず、透明人間の存在自体を信じる者がいないだろうから」
「ただ、浩一さんはいま失踪していて、彼の妹のさくらさんが大変心配しているわ。それに、わたし、浩一さんに何か危険が迫っている気がするの。早く、浩一さんを見つけ出してあげて、おじさん」
「うむ、わかった。もちろん、それは全力を尽くそう」
晶子はそのまま南雲に別れを告げて警視庁の外に出た。もう夕暮れ時になっていた。そして木立の陰を通り過ぎた時にふわりと愛らしい姿を現した。だが、そのとき背筋に異常な悪寒を感じた。晶子が振り向こうとしたときにはすでに時遅く、男の声が聞こえた。と同時に晶子の背に固いものが押しつけられたのが分かった。
「俺だ、晶子。振り向くな。俺の銃が黙っていないぞ」
それは、あの透明刺客の声だった。
「あんた、わたしが一年前に東京郊外にいた時からわたしを付け狙ってる刺客でしょ。名前はなんていうの?」
「俺は、メルサだ」
「二宮祐二とはもう一年以上つきあってるんでしょ。どうしてそんなことになったの?」
「それは、お前には関係ない。必要なら、祐二がお前に話すだろう」
「でも、あんた、わたしを殺す理由が透明人間の存在を普通の人間に知られたくないためとか言ってたわよね。あんた自体が二宮祐二という普通の人間とツルんでるのは、なんか矛盾しない?」
「お前は俺たちのコントロールできない存在だ。だが、俺は違う。祐二が俺たちの存在を世間に公表するような考えを持つなら、いつでも俺は彼を殺すまでだ」
「そう、あんたに都合の良い理屈ね。それに、いまはあんたにとって二宮祐二の飼い犬になってると何か良いことがあるわけね。だから、いまここでわたしを殺すこともできないんでしょ」
「フッ、飼い犬か。そんなことより、あそこに止めてある車に乗るんだ」
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