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その頃、クラブ・クリスタルの中では、ミラーボールが下がっているステージに椅子が二つ置かれてあった。そこに、浩一と晶子が両腕を椅子の背もたれの後ろに回す格好に座らされていた。ふたりの手首と足首にはビニールテープが巻きつけてあった。浩一は睡眠薬を注射されでもしたのか気を失ったように眠っていた。二人の前には支配人の佐田進と、二宮祐二、そして田中勇作ら取り巻き四人組がいた。晶子が見渡した範囲にメルサの姿はなかった。
「いい格好ですね、晶子さん」
派手なスーツ姿の祐二が晶子に上から目線で話し掛けた。
「こんなことして、今朝の全国模試の報復のつもり?」
「そうですね。借りたものは返すというのがわたしの方針ですから。それも、倍にしてね。それに、晶子さんはずっと前からメルサが命を狙っていたというじゃないですか」
「メルサはなぜあんたの飼い犬になっているの?」
「飼い犬?ふふふ、ビジネス・パートナーと呼んでほしいですね。その方がメルサも気持ちが良いでしょう」
「ビジネス・パートナー?それがメルサにカーディナルの放火をやらせたこととどんな関係があるの?」
晶子は警視庁で見た防犯カメラの映像からメルサが放火犯だと確信していた。
「ほう、何でもご存じですね。この浩一が変な邪魔をしなければカーディナルは今頃、出火による営業停止、そして経営危機ということになっていた筈だったんですがね」
祐二はあきれたというような顔をして浩一を見た。
「カーディナルが経営危機?」
「そう、実はわたしが支配権を持っている投資ファンドがありましてね、晶子さん。それはクリスタル・ファンドというんですが。この前、このクラブ・クリスタルもそのファンドが買収したんですよ。そして、このクラブをテコにしてカーディナルの買収も計画しているんですよ。わかるでしょう。買収相手が経営危機ともなれば、わたしたちが買い叩いてタダ同然で手に入れることができるんです」
「それで、メルサがビジネス・パートナーというわけ」
「その通りです。まあ、全国模試のお手伝いはそれを少し逸脱していたかもしれませんがね」
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