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その言葉が終わると、場内が真っ暗になったと思った瞬間、白色の照明がきらめく様に激しく点滅してDJのハッスルボイスが場内に響いた。そして、ハードロックのサウンドが鳴り響き、それに釣られるように若いドレスアップした招待客たちがステージに集まり踊り出した。
朋美と晶子は明かりの落ちた奥のブース席に着いて、翔がバーから持ってきた飲み物やスナックを受け取った。ガラスのテーブルには淡いピンク色の卓上ライトが輝いていた。
「やあ、これはこれは、朋美さんに翔さん、ようこそ」
祐二が取り巻きの男たちから離れて、ひとりでやってきた。
「新装開店のお披露目は大成功のようね」
朋美がハイボールを一口飲んで、祐二を見上げた。
「これから、もっと楽しいクラブになりますよ。ところで、こちらのお嬢さんはどなたでしょうか?」
祐二が笑みをたたえて、晶子の顔を覗き込んだ。
「朝倉晶子です」
晶子が自分で素っ気なく答えた。
「ほう、晶子さん。朋美さんのお友達ですね。わたしは二宮祐二といいます。よろしく」
「こちらこそ。ところで、どうして、このクラブの新しい名前が『クリスタル』なんですか?」
「良いご質問ですね。クリスタルは透明の象徴です。わたしは透明なものこそ最も美しいと思っています。晶子さん、あなたも名前と同じでクリスタルのように美しいですね。これは偶然でしょうか?」
そう言った祐二の言葉が、晶子にはシニカルに響いた。
「どういう意味でしょうか?」
「ハハ、深い意味はありません。ただ、あなたをわたしが美しいと思ったというまでのことですよ」
そう言うと、祐二は大人びた笑みを浮かべて立ち去った。
「何を考えているのか、良くわからないやつね、祐二って」
朋美が欲求不満のような声で言った。結局、翔の当初の意気込みははずされ、興ざめした朋美と晶子たちは早々にクラブ・クリスタルを退出した。
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