第8話 全国模試

4/27
前へ
/27ページ
次へ
 その言葉が終わると、場内が真っ暗になったと思った瞬間、白色の照明がきらめく様に激しく点滅してDJのハッスルボイスが場内に響いた。そして、ハードロックのサウンドが鳴り響き、それに釣られるように若いドレスアップした招待客たちがステージに集まり踊り出した。  朋美と晶子は明かりの落ちた奥のブース席に着いて、翔がバーから持ってきた飲み物やスナックを受け取った。ガラスのテーブルには淡いピンク色の卓上ライトが輝いていた。 「やあ、これはこれは、朋美さんに翔さん、ようこそ」  祐二が取り巻きの男たちから離れて、ひとりでやってきた。 「新装開店のお披露目は大成功のようね」  朋美がハイボールを一口飲んで、祐二を見上げた。 「これから、もっと楽しいクラブになりますよ。ところで、こちらのお嬢さんはどなたでしょうか?」  祐二が笑みをたたえて、晶子の顔を覗き込んだ。 「朝倉晶子です」  晶子が自分で素っ気なく答えた。 「ほう、晶子さん。朋美さんのお友達ですね。わたしは二宮祐二といいます。よろしく」 「こちらこそ。ところで、どうして、このクラブの新しい名前が『クリスタル』なんですか?」 「良いご質問ですね。クリスタルは透明の象徴です。わたしは透明なものこそ最も美しいと思っています。晶子さん、あなたも名前と同じでクリスタルのように美しいですね。これは偶然でしょうか?」  そう言った祐二の言葉が、晶子にはシニカルに響いた。 「どういう意味でしょうか?」 「ハハ、深い意味はありません。ただ、あなたをわたしが美しいと思ったというまでのことですよ」  そう言うと、祐二は大人びた笑みを浮かべて立ち去った。 「何を考えているのか、良くわからないやつね、祐二って」  朋美が欲求不満のような声で言った。結局、翔の当初の意気込みははずされ、興ざめした朋美と晶子たちは早々にクラブ・クリスタルを退出した。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加