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部屋いっぱいにサウンドが鳴り響いた。さちえと百合子がそれぞれマイクを持って、小さなモニターを見ながらAKB48の『真夏のSounds good!』を合唱した。ステージではあけみとのぶえがAKBのコスチュームを着て激しく踊った。朋美はリモコンを操作して次の選曲に余念がなかった。
晶子は派手な衣装と踊りや沸き起こるような歌とサウンドに最初圧倒されたが、馴れるに従って今まで経験した事のない楽しさを感じた。なによりも同年代の女子高生たちと普通に付き合っているのが夢のようだった。
「ほら、晶子、次はあなたの番よ」
朋美がリモコンを晶子に渡した。
「わたし、初めてだから。できるかな…」
「じゃあ、わたしと一緒に歌いましょう。合唱ならついて来れるでしょう」
「朋美は何の歌にしたの?」
「迷ったけど、やっぱり最初は西野カナのディアよ」
そう言って、朋美はイントロを口ずさんだ。
「ああ、その曲なら聞きおぼえがあるわ。じゃあ、一緒にお願いします」
「それじゃ、コスチュームを選ばなくっちゃ。何か、かわいいのがいいな」
そう言って、朋美は晶子の手を取りクロゼットに行き衣装をチェックした。
「晶子はこれにしたら。わたしはあれにする」
「わかったわ」
二人は、試着場で着替えて、席に戻った。ちょうど、最初の歌が終わってステージが空いた。マイクを受け取った晶子と朋美はフリフリのゴスロリ衣装を着て、ステージに立った。テレビ画面に西野カナの「Dear…」という文字が映し出され、前奏曲が始まった。あかねたちの拍手と喝さいが起こった。
そのとき、ドアにノックがあり、男性従業員が食事とドリンクをカートに乗せて入ってきた。
「ああっ。イタリアンねぇ。ピザもあるわよぉ」
のぶえが早速、テーブルに配膳された料理の中から一片のピザを手にしてかぶりついた。
「ちゃんと、わたしたちの歌も聴いてよぉ。食事はどんどん来るから、そんなに慌てなくてもだいじょうぶよぉ」
曲が間奏になったところで、朋美がマイクに向かって叫んだが、女子四人組は食べるのに夢中でてんで聞いていなかった。
「ちぃ、聞いちゃいネェ…。わたしたちも、お腹すいたから行きましょう」
「歌は?」
「いいわよ。最初だしそのまま流しとけば…」
そう言うと、サッサと朋美はマイクを持ったまま、席に戻ってピザの切れ端を確保した。
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