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翌朝、朋美が学校の教室に新聞の切り抜き記事を持ってきて晶子に見せた。それは昨夜のカラオケ店カーディナルの火災についての記事だった。
「結局、ボヤ程度で済んだらしいけど。でも、避難の途中で慌てた客のなかにけが人が出たみたいよ。死者がなかったのは幸いって書いてあるけど」
朋美がいろいろ解説している間に、晶子は記事をざっと斜め読みした。
「不審火って書いてあるわね」
「そう、それよ。だから、わたしこれを切りぬいてきたのよ。何か、事件の匂いがするでしょう」
朋美の推理好きが顔を出したと、晶子は思った。
「出火の場所は三階の十七号室と推定されるが、そこは昨夜使われていなかった…」
晶子が記事を読み上げると、朋美が頷いた。
「そうなのよ。わたしたちの部屋は三階の十二号室で非常口に近かったでしょう。十七号室はこの記事の見取り図によると、非常口から一番遠い部屋なのよね。それにしても同じ階で不審火なんてほんと危ない店だわ」
「警察や消防の取り調べ、内装の改修などで一ヶ月ほど休業の予定…、ってあるわ。このお店も大変そうね」
「結構、人気のある老舗なんだけど、いまの厳しい競争のなかで一ヶ月も営業を休んだら、大変よね。けが人も出てるからいろいろ出費もあると思うし…」
「でも、不審火と言うことは誰かが故意に放火した可能性があるということでしょ」
「そうなのよ。だから、いったい誰が何のためにそんなことをしたかってことよ」
「ここに、経営不振となれば身売りも考えられるってあるわ。身売りって何のこと?」
「会社の身売りっていうのは、企業買収ってことよ。つまり、投資家やほかのお店がお金を出してそのお店を買い取るということね」
「つまり、所有者が変わるっていうことなのね」
「そう。この前のクラブ・クリスタルもそうよ。あのクラブもオーナーが変わって名前ややり方がガラッと変わっちゃったわ…」
朋美は大事なものをなくしたように、しんみりと呟いた。
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