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*****  先生の後についてリビングに顔を出すと、和真さんがソファの向こうからひょいっと顔を出した。 「和真。カレーご馳走さま。こいつ送って、そのまま帰るから」  先生の言葉に、和真さんはやけにいやらしい流し目を送って来た。 「おいおいおい、不埒だなあ、おい。 二人きりで個室にこもっちゃって、こんなに長い時間、何してたのかなっ」 「ミーティングだよ、決まってるだろ」 「あ、そーーー。ふーーーん。それならいいけど、ね、椎名さんっ」 「…はあ…」  和真さんは、キラキラ笑顔でウインクをパチリと投げて来た。  …ウインクって…。…生まれて初めて、されたかも…。  リアクションに困っていると、春山先生がじーーーっとわたしの顔を見つめている事に気付く。 「……今、二人でなんか目くばせ、しなかった?」 「いえっ、してないです、一切」  即答すると、先生は逆に怪しんだのか、さらに顔を近づけ、わたしの表情を分析し始める。  わたしが渾身の無表情を決め込んでいると、先生は矛先を和真さんにビシッと変更した。 「…和真、…こいつに何か余計なこと、言っただろ」 「言ってないよ」 「うそだ」 「そんなあ、…たったひとりの兄を疑うなんて、ひどいよ哲哉くん」 「……」  おふざけな返しにピキッと来たのか、春山先生は冷たい目で和真さんを一瞥し、こちらを振り向いた。 「行こう、椎名」 「…はい…。あの、和真さん、…ごちそうさまでした」  わたしがぺこ、と頭を下げ、リビングから出ようとすると、 「椎名さん」 「はい」  振り返ると、和真さんはにっこり微笑んで、 「今度、母親のいる時に来てよ。 けっこう面白いおばちゃんだからさ。すぐ、仲良くなれると思うよ」  …和真さん…。  わたしは微笑んで、もう一度頭を下げた。 「…はい…ありがとうございます…」  和真さんは、ばいばい、と手を振ってから、くるりとテレビの方を向いてしまった。
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