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熱を持ったほっぺをごしごし擦りながら、ふと視線を移すと、さっき先生が探っていた黒い箱が目に入った。
……もしかして……。
月子ちゃんが言っていた言葉を思い出す。
『アルバムの仕舞ってあるところに、古い携帯が入ってて…』
わたしいは吸い寄せられるように、スチールシェルフに四つん這いでにじり寄った。
プラスチックで出来たその箱には、浅い蓋がかぶせてある。
指で蓋の端を持ち上げ、ずずず、と奥にずらしてみた。
中を覗こうとして、はっと我に返る。
――ダメっ!
わたしは慌ててその場から飛び退いた。
……何してるんだろう、わたし……。
その場にうずくまり、自分の頭をポカポカ叩く。
…最低…。…おバカ…。…ダメダメ子…。…一瞬でも、人の物を無断で盗み見ようとした自分が、信じられない。
これが世に言う、…恋人の携帯電話から発せられるという、恐怖の、…携帯引力…。
…恐ろしい…。
一度そのボーダーラインを越えたら、きっとわたしはそちら側の住人になってしまう。
わたしはぶるっと震え、自分の身体を抱きしめた。
――考えない考えない……。
わたしは大人、イイオンナ……。
ぶつぶつと例の呪文を唱えているうちに、心が落ち着いて来る。
――とりあえず、箱の蓋だけ閉めておこう。
わたしは膝立ちでシェルフに近づき、ずらした蓋に手を伸ばそうとした。
絨毯に躓き、転げそうになって、咄嗟にシェルフの棚に掴まる。
振動で、シェルフの上の段からボトリ、と何かが落下し、絨毯の上で跳ね、わたしの足にぶつかった。
「いたっ」
顔をしかめ、足元を見ると、…そこには、古い携帯電話が落ちていた。
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