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「……」  …これは…。  間違いなく、…そうだよね…。  わたしはその黒い携帯電話を拾い上げた。  先生と彼女が交わしたメールがこの中に詰まっていると思うと、…ものすごく重みを感じる。  そして、この携帯が未だに先生の心を過去に引き戻そうとしていると思うと、胸がチリチリと痛んだ。  立ち上がり、シェルフに戻そうとして、ふと手を止める。  ……待ち受けだけ、見ちゃおうかな…。  モトカノがカオリさんなのか、それとも全く別の人なのか、それだけでも…。  知らず知らずのうちに、携帯を握る手に力が入る。  …なんてね。  ちらりと浮かんだ考えをえいっと遠くに押しやり、わたしは携帯を棚の上に置いた。 「携帯なんか、関係ない…わたしは大人、…イイオンナ…」  ややラップ調に呟きながら、じりじりじり、と後ずさりしていくと、トサ、と背中が何かに突き当たった。  両肩にポン、と手を乗せられ、顔を振り向けると、…先生とよく似た美しい顔が、にっこりと微笑む。 「…かっ…和真さん…」 「いい女がどうかしたの?」  わたしは慌てて向き直り、一歩後退した。 「いえ、…何でも…」  和真さんはくすっと笑って、 「偉いね、椎名さん。よく我慢できたね。 俺なら、見ちゃうな。パカッと。……ま、ぎりぎりのところで引き返したっぽかったけど」 「……」  和真さんはわたしの脇をすり抜け、すたすたとシェルフに向かった。  棚の上の携帯を手に取り、あっさりパカッと開ける。 「ほら、見て」  思わず目を向けると、――その画面は真っ暗だった。 「充電なんかあるわけないじゃん、…随分昔のなんだから」  ――そっか……。  わたしは身体から一気に力が抜けるのを感じた。
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