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「椎名さんは、どこまで聞いてるの?」 「…え…」  和真さんは携帯を元の場所に戻し、こちらを見た。 「テツから、どこまで聞いた?」 「……」  その、先生にそっくりなコハク色の瞳には、先生と同じ悲しげな影が浮かんでいるような気がする。  ――知ってるんだ……。  どこまで聞いた?というのは、おそらく、先生の過去の恋について、という意味なのだろう。  ということは和真さんも、先生の彼女を直接知っているのかもしれない。 「…どんな人、だったんですか…」  わたしは思わず訊いていた。 「え?」 「先生の、好きだったひとは…どんな人だったのかなって…」  和真さんはきょとん、と目を見開いて、 「聞きたいの?」 「……」 「聞かない方がいいんじゃない?辛くなるだけだと思うよ。 知っても仕方ないでしょ、もう、終わったことなんだから」 「……」 わたしはきゅっと唇を噛んだ。 「本当に、…終わったこと、なのかな…」 「…え」 「先生は、…もしかしてまだ、その彼女のこと…」  言いかけて、わたしは口をつぐんだ。  疑いを口にしたら、…それが現実になってしまいそうで、怖かった。 「ごめんなさい、なんでもないです」  わたしは詰めていた息を吐き出した。 「先生からは、何も聞いてません。 わたしに分かるのは、その彼女の話に触れると、先生がすごく悲しそうな顔をするってこと…。 それだけです」 「……そう」
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