はじめのはじめ

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はじめのはじめ

何だか無性に苛立った。否、不甲斐なかった。 相変わらずの癖の強い墨のような髪は、僕が知っている時よりも少しだけ伸びていた。 背中に編んで垂らした一房だけを残して切り整えたその髪型は、酷く歪で不安定に見える。 今更すぎるが、もう完全に他人へと成り下がってしまった今の関係からその姿を見ると、何だか非常に苛立った。 全てを達観して捉えているようなその視線も、尖らせに尖らせた恨み辛みを全て受け流しそうな雰囲気も。 そして何より、普段とは打って変わった意思を奥に秘めるそのエメラルドグリーンの瞳が。 黒髪黒瞳の、何もかもを撃ち損ねたような僕への当てつけのように感じられて、非常に苛立った。 身勝手な事だとは分かっている。分かっているのだけれど。 ーーーあの頃に戻れたらと、願わずにはいられない。 僕は腰に引っ提げた似合いもしない日本刀を眺めて、微かな苛立ちを指先に込めて柄をトントンと叩いた。 そして、大した装飾もない其れを抜き放つ。 別世界の一大国日本の歴史的遺産の一つ、日本刀は脈打つような波紋を光芒の下に晒し、独特の反りと共に自他共を圧倒した。 鋭くも鈍く光る刃先は、振れば鉄をも断ち切れそうだ。否、出来るに違いない。 素晴らしい出来だ。それなのに。 どうしても、物足りなさを感じざるを得ない。 これは僕の長きに渡る怠惰の結果だ。その結果を固めたものが僕なのだ。 今更研ぎ澄ました所で、元来の斬れ味など遠く及びもしない。 でも、それでいい。 この只の日本刀だって、今の僕には上等だ。 闘う手段など只の建前で格好に過ぎない。 僕は今、目の前にいるこの男と比べて、抜き放たれた片刃の刀剣と同列の存在なのだから。 改めて強く思った。 目の前にいるこの男と共にいた時に戻れたら、と。切望した。 僕はその展望を薙ぎ断つように刀を切り払い、口の中で呟いた。 「本当に救い難い」 そうだとしても、これが僕の収穫なのだから、と。 僕は直後に言い訳がましく付け足した。
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