美津とぼく

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 白い湯気を吐くポットがしゅうしゅういう音、鉛筆を紙に走らせる微かな音。  今、部屋で聞こえるのはこの二つだけ。 「疲れた?」  スケッチブックから目を上げて問うと、ソファの上の美津は小さく頷いた。 「じゃ、休憩にしようよ――寒かっただろう?」 「ちっとも」  まるで他人事のように言うなとぼくは思った。  灰色の空を映す窓硝子を、時折北風がカタカタと鳴らしては過ぎていく。 「だいぶ増えたね。パラパラマンガみたい」  スケッチブックの紙を一枚一枚ゆっくりめくっていく、白い手。 「今日で、十五枚目」 「そんなに?」 「江上だろ、そんなに描かせてるの」  横に立つ美津の顔を、じろっと睨んでやった。
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