美津とぼく

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 それからは、スケッチブックではなく美津に向かう日が増えた。  鉛筆で輪郭を描く代わりに手で肌を撫で、指で目鼻、唇をなぞってはキスをした。  美津はキスはあまり好きでないらしく、何回か唇を合わせるとすぐ先をせがんだ。  曇天より晴れの日に恵まれることが増え、外の空気も湿気をはらむようになった頃。 「高文祭、出すやつ決まった?」  夏川の問いにまだだと答えるぼくは、数日間姿を見せない美津のことを気にしていた。 「今年は持ち回りがここなんだって顧問が言ってた。……高等学校総合文化祭、高等学校総合文化ちゃ……長げぇよ」  まさかのところで噛んだせいか、変なテンションになった夏川がラジカセ前で選曲を始めるのを眺めていたぼくは、部室の窓から空を見上げた。  そろそろ梅雨入りするらしい空は、まだ澄んでいて青い。
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