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「美津が額に入れて飾ってたあの絵、あなたが描いてくれたのね」
いつもの居間で、美津のお母さんが穏やかに口を開く。
美津が飲み物を淹れてくれたあのサモワールは片付けられたのか、見当たらない。
美津は母親似だったんだなと思う一方で、ぼくは彼女はどうしたのかをたずねた。すると、
「病院にいるの。……これから行くんだけど、あなたも行く?」
予想外のことにどきりとしながらも、ぼくは小さく頷いていた。
行きは美津の重い持病と容態を淡々と話していた美津のお母さんも、帰りの車内ではとうとう堪えきれずに泣いた。
病が悪化して病院にいる間は、あの絵を私と思ってねと言い残していたそうだ。
通路から眺めた集中治療室の硝子越しに美津を見つけた時の気持ちは言葉にできない。
真っ白な肌はいよいよ血の気も失せて、石膏像みたいに見えた。
ベッドに眠る美津の意識は、おそらく戻らない――らしい。
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