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「――本格的に模様替えですね。」  小一時間ほどしてから様子を見に来た郡山の声に、手を止める。  部屋はまだ片付けきれてないし、本は机に平積みにされているから、雑然としている。 「やり始めたら、とまらなくって……。」  亜希はにこりと笑うと、箒を無造作に机に立て掛ける。  郡山は部屋をぐるりと見渡した。 「本棚、動かしたんですね?」 「あ、はい。」 「一声、掛けてくださいと言ったのに。」 「あ、もしかして何か事前に申請が必要でしたか?」 「いいえ、そうじゃありませんけど……。重かったでしょう?」  そう言いながら、郡山は不意に亜希の姿に目を奪われる。  白いブラウスが、よく似合っている。  しっとりと汗をかいているのか、何だか妙に艶めかしく感じる。 「そうでも無かったですよ。本を抜けば、私でも動かせましたし。」  亜希がそう答えても、郡山はしげしげと亜希を眺めているだけで無反応だ。 「あの……?」  怪訝そうに首を傾げて見つめてくるから、郡山は目を泳がせた。 「……し、下に荷物が届いてますよ。」 「あ、もう着いたんですね。持ってこなきゃ。」 「じゃあ、手伝いますよ?」 「え、でも書籍が多くて重いですよ?」 「ええ、構いませんよ。」  そう言うと亜希と一緒に事務室へと向かう。  さっきと違うのは、郡山の歩調が亜希に見惚れて遅くなった事くらいだろうか。 (進藤先生、今、フリーなのかな……。)  郡山が隣でそんなことを考えているとはつゆしらずに、宅配便のラベルが貼られた箱を亜希は抱える。  それを半分手渡すと、郡山は驚いた声をあげた。 「うわ、見た目より重いですね。」 「中身が本なので……。」 「それにしても重いですよ。こんなに読むんですか?」 「それでも選りすぐったんですけど……。」 「へえ。読書家ですね。俺なんか教材のを読むので、いっぱいいっぱいなのに。」  その言葉に亜希は、くすりと笑う。 「私も五年前はこんなに読書するとは思ってなかったんです。」  久保に出会う事が無かったなら、きっと必要な分しか読まなかっただろう。
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