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 冷静ぶった態度を貫き通しながらも、職員室に戻るまでの間、郡山はずっとそわそわしていた。 (……見た目も好みで、話も合う。)  ここ二、三年、こんな風に胸がむず痒く感じるなんてなかった。  思わずジャージの胸の辺りをギュッと掴む。  「廊下は走らない」と書いてあるのに思わず走りだしたい気持ちになる。 (……この仕事、正直言えば、好きじゃなかったんだけどなあ。)  就職した一年目こそ、毎日がはじめての連続で無我夢中で、楽しかった。  しかし、二年目以降は教える内容が少し変わるだけで、同じ事の繰り返しだ。  その上、最近は学力重視の傾向に戻るきらいもあって、給与は変わらないのに今年度から授業数も増える事になった。  今日から四年目を迎えることになったが、郡山にとっての「教師」は「ビジネス」でしかなかった。  毎年毎年代わり映えはなく、ひたすら講義をする毎日。  まるで好きでもない同じテレビゲームを、クリアしてもクリアしても繰り返しやらされているかのようだ。  だから、郡山は「亜希」の存在に今までとは違う新鮮さを感じていた。  明日から登校も楽しみになる。  郡山は職員室の自席に戻っても、しばらくは惚けて仕事が手に付かなかった。 「少し椅子、引いてもらえませんか?」  後ろを通り掛かった久保が珍しく、郡山に声をかけてくる。 「え?」 「椅子。」 「あ、ああ。」  真ん中の空いている席を挟んで、久保と郡山の席はすぐ近くだ。  しかし、二人の年齢は近いものの、丸四年が経っても、ぎこちない空気が常に流れていた。  真ん中の席はいつまでたっても空席で、それが一層「ベルリンの壁」のような隔たりを二人にもたらしているのかもしれない。 「……隣の席、進藤先生が来たら良いのに。」  郡山がぼそりと呟くと、久保がほんの一瞬だけ表情を強張らせる。 「――ああ、進藤が隣の席にくるらしいな。」  久保が「進藤」と言うと、今度は郡山が表情を固くする。 「久保先生、『進藤』って……。」 (――なんで、そんな親しげに!)  そう声を荒げかけて、はっとする。 (……って、担任だったって言ってたか。) 「『久保先生、進藤って……』?」 「いえ、何でもありません。」  そう答えても、久保は片眉を上げて怪訝そうな表情をしている。
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