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「……久保先生は、進藤先生の高三の時の担任だったんですってね。さっき伺いました。」  再び、久保はピリッとした雰囲気を纏う。  郡山が「進藤先生」と言い直したものの、亜希の事を「進藤」と言ったことが少し気に障ったのだ。 「……ええ、まあ。」  口重く返事をして、顔を顰めながら席に着く。  亜希に会えて嬉しいはずなのに酷く心が騒つく。 「……ああ、高校時代の進藤先生、可愛かったんだろうな。」  聞きたくもないのに腑抜けた声で郡山が独り言を呟くから、久保は心の内でそれに答えた。 (……ああ、可愛かったさ。)  五年ぶりに再会した亜希は、髪は少し緩やかなウェーブがかかっていて、化粧もしていて、真新しいリクルートスーツを着ていた。  それでも、首を少し傾げて、ドアを少し開けてひょっこり顔を覗かせる姿を見た時には、一瞬彼女が高校生に戻ったような幻が見えたものだ。 (――凄く、綺麗になってた。)  くわっと大口をあけて欠伸をして、顰めた表情筋をそれとなく伸ばすと、古書と辞書に溢れた机に突っ伏す。  今の亜希はあの頃の彼女ではないと、よくわかっている。 (……もう、五年が経ってる。)  久保は「自分のことを覚えていただけでいいじゃないか」とか、「五年も経てば、恋愛のひとつやふたつしているだろう」とか「彼女は前に進んでいるんだ」と自らに言い聞かせる。  しかし、頭では理解できるのに、心は騒ついて仕方なかった。  教えることが生き甲斐になりつつある久保とは仕事のスタンスが違う郡山が、浮かれている姿にムカムカと腹が立ってくる。  普段、生徒に対する対応が素っ気ない郡山が、亜希に夢中なのが気に入らない。 (進藤の奴も、気も無い癖に。……人を見て愛想を振り撒けよな。)  腹立たしさの矛先はいつの間にか郡山から亜希へと移る。 (アイツの事だから、ほわほわと『教え方が上手い』とか言ったんだろうけど……。)  久保の予想は当たらずも遠からずだ。 (……後で、注意しておこう。)  こんな時まで教師風を吹かさなくてもいいのに、そんな事まで考える。  それから別の書類を手にすると、国語科準備室へ戻って続きの仕事をすることにした。
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