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 ――紙が舞い散る。  久保は大きくその腕を広げると、飛び込んでくる亜希を受けとめようと奥歯を噛み締めた。  ――鈍い衝撃。  ぐっと力を込めて、飛び込んできた亜希を抱き止める。  しかし、勢いに負けて、そのまま二人で踊り場に倒れこみ、久保は尻餅をついた。 「……あれ、痛く……ない?」  亜希が胸元で訝しげな声を上げている。  久保は思わず深いため息を洩らした。 「怪我は無いか?」  ふわふわとした髪が揺れ、上目遣いに亜希が見上げてくる。 「……平気、です。」 「そうか……。」  久保はほっとしてにこりと笑うと、そのままギュッと亜希の体を抱き締めた。 「――無事で良かった。」  その久保の低く優しげな声に亜希は息を呑んだ。  ――ドクン。  動機と共に、目を白黒させる。  ――この動揺はどちらのものだろう。  ――階段から落ちたせい?  ――それとも……。  しかし、久保はあっさりと亜希を支え起こすと、落ちる原因になったスリッパを拾い手渡してくる。  そして、あちこち散らばったプリントを掻き集めて、乱雑ながらとんとんと纏め始めた。  亜希も少し反応は遅れたが、我に返ってプリントを拾い始める。  踏みつけてしまった分は、手で埃を払った。 「これ……。」 「ああ、ありがとうな。」 「ううん、こっちこそ助けてくれて、ありがとう。階段から落ちるなんて思わなかった。」  その言葉にクスリと笑みが零れる。 「……進藤がそそっかしいのを忘れてた。」  その言葉に亜希は耳の付け根まで真っ赤になる。 「笑うなんて、酷い。人の失敗を笑うんじゃないって言ったの、久保センでしょッ!?」 「はいはい。」 「……もうッ!」  亜希の膨れっ面に不思議と温かな気持ちになる。  「久保セン」と呼ばれた事が嬉しかったのもあるが、自分に気を許している姿にさっきまでの腹立たしさはすっかりナリを潜めた。  亜希の頭の上に手をぽんと置く。 「――ほら、上に行くぞ?」 「……うん。」  久保の手が触れたところを触り、亜希はしばらくぼんやりと佇む。
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