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教室の中は騒ついていて、番号札を確認すると荷物を自席に置く。
「よぉ、進藤、また一緒だな。」
「出来れば違うクラスが良かったんだけど。」
「そういうなよ。……三年共、同じクラスなんだからさ。」
「……単にクラスが一緒だっただけでしょ?」
「――ちぇっ、相変わらず俺には冷てえのなぁ。母さんには愛想振りまく癖に。」
「それは、それ。これは、これ。」
プンッと外方を向くと詰まらなそうに口を尖らせる。
内田 智和とは一年から三年まで高校三年間、同じクラスの同級生だ。
母親同士が仲が良いから、何となく内田の母親とも面識があるが、別にそれを理由に内田と特に仲良くする理由は見付からなかった。
「ま、いつもの事だから良いけどさ。おっと、こんな時間だ。そろそろ、体育館に行こうぜ。」
そう言うと内田は周りにいた数名の男子と連れ立って、教室を出ていく。
こういう時は亜希に構わない辺りが、付かず離れずでやってきた縁を象徴している。
見渡すと、まもなく始業式が始まるらしく、各々、教室から出て体育館へ向かっている。
亜希も荷物を自席に置くと、体育館へと向かった。
入り口は混みあっていて、今日は新二、三年生しか居ないというのにやけに騒ついている。
「男女分かれて、だいたい背の順で並んだら、座りなさい。」
この「だいたい」を理由にして、あちこちで背比べをしては、並び直しをしているのだ。
亜希は前から八番目という前の方でも後ろの方でもない中途半端な位置になって座る。
体育座りはスカートが捲れそうで、正座は長時間は無理だから、今日は先生の目も甘いことをいいことに、横座りになった。
周りでひそひそ声が飛びかう。
「……なあ、久保って先生はどれだと思う?」
「あのオジサンとお兄さんどっちだろう?」
「私、若い先生の方がいいんだけどなー。」
「女の先生じゃなきゃ、俺は興味ねぇ~っ。」
多感な高校生らしいひそひそ話。
それも石松が睨みを利かせて見回りに来ると、みんな示しを合わせたように黙りこむ。
そして、眠たさを噛み殺しながら、校長の挨拶を聞き、式次第が早く終わらないかとじっと待つ。
私立だから、先生の入れ替えは公立のそれより稀なのだが、その年は久保を含めて珍しく三、四名が入れ変わった事もあり、やけに時間が長く感じた。
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